生産性を上げるためにはどうしたら良いのか、悩んでいる飲食店経営者は多いのではないでしょうか。
この記事では、飲食店の生産性をはかる指標や生産性を上げる方法を、事例を用いてご紹介します。
飲食店の生産性に関する課題や疑問を解決する一助になるはずですので、是非ご参考にしてください。
飲食店は業務効率化で生産性を上げることが急務!
飲食店は業務を効率化し、生産性を上げることが急務。持続可能な経営をするためには欠かせない取り組みです。
その理由としては、以下の2つが挙げられます。
- 人件費の上昇
- 慢性的な人材不足
人件費の上昇の主な要因は、最低賃金の底上げです。
厚生労働省の「平成14年度から令和5年度までの地域別最低賃金改定状況」によると、平成14年度の全国加重平均額は663円。令和5年度では1,004円まで上昇しています。
加えて、慢性的な人材不足。
人材不足の原因は、飲食業界全体で採用の難易度が上がっていることが挙げられます。
厚生労働省の「一般職業紹介状況(令和5年9月分)について」によると、飲食調理の有効求人倍率は2.91倍、接客・給仕が3.11倍です。他の職業の求人倍率(情報処理・通信技術者:1.52倍など)と比較しても飲食業の求人倍率は高いことがわかります。
飲食店の生産性をはかる4つの指標
飲食店の生産性をはかるためには、指標を活用するのが効果的です。ここでは、4つの指標について解説します。
人時生産性
人時生産性とは、人員1人につき1時間で生みだした粗利益の指標です。計算式は以下のとおり。
人時生産性=粗利益÷総労働時間
中小企業庁が2021年6月に公表した資料「中小小売業・サービス業の生産性分析」によると、飲食業の平均的な人時生産性は1,902円/時です。
ただし、しっかりと利益を出すためには、3,000円/時程度を目安に考えるとよいでしょう。達成できている店舗では、粗利益が高く、総労働時間が適正な場合が多いです。
人時生産性は、オペレーションの効率化やスタッフ教育が浸透することで、数値として成果につながります。数値が高いほど、効率的な店舗と受け取れますが、一方で人員が少なく、キャパシティを超えた無理な営業をしているという見方もできるため、注意して分析しましょう。
この指標は、飲食店全般で利用できるため、業態に関係なく導入できます。
人時入客数
人時入客数(人時接客数)とは、人員1名につき1時間あたりの来店数を示した指標です。1時間でどれだけのお客様に対して価値提供ができたのかが分かります。計算式は以下の通り。
人時入客数=入客数÷総労働時間
※入客数は、1か月で来店されたお客様の数
人時入客数が多ければ生産性の高いお店と捉えることが出来ます。そのため低単価で回転を狙った飲食店に向いている指標です。
ただし、数字が高くなりすぎないように注意が必要です。例えば人員が少ない日に同じお客様数に対応した場合、店舗スタッフ1人1人にかかる負担は大きくなります。そのため、人時入客数はコントロールが重要です。
労働分配率
労働分配率とは、粗利益における人件費の割合を示したものです。計算式は以下のとおり。
労働分配率=人件費÷粗利益×100%
飲食店の適正な労働分配率は、40%前後です。43%以上の場合、赤字になっている可能性があります。なぜなら、人件費以外にも、仕入れ原価やその他固定費や経費は掛かり、労働分配率が上がるほど、利益を圧迫してしまうためです。
適正な店舗営業をするためにも、労働分配率は40%前後でコントロールできるようにしておくと良いでしょう。
労働分配率は大手チェーン店の指標として適しています。オペレーションのシステム化やマニュアルを活用した育成プログラムが充実していて、労働分配率を参考に人件費のコントロールがしやすいためです。
労働生産性
労働生産性とは、従業員1名あたりの付加価値額を求めたもの。付加価値額とは、購入した原材料や人材資源などに企業の資源(教育や店舗設備など)を加えて付加価値に変えたものを指します。具体的には人件費や家賃などです。
労働生産性は人的資源からみた生産性の指標です。数値が高いほど生産性が高いという判断が出来ます。計算式は以下のとおり。
労働生産性=付加価値額÷従業員数
中小企業庁が公表した「中小小売業・サービス業の生産性分析」によると、飲食業の業種平均で労働生産性は2,329円となっています。
【事例】飲食店の生産性を上げる方法
ここからは、実際に飲食店の生産性を上げた具体的な方法を事例で紹介します。
自社の課題と照らし合わせながら、ぜひ参考にしてください。
事例①:研修制度とオペレーション改善で人時生産性が4,000円に
研修制度と店内オペレーションの改善で人時生産性が4,000円を超えた事例です。
鶏料理をメインとした居酒屋業態で客席が60席、30坪の大衆型店舗。人材不足による生産性の低下で売上が取れないことが大きな課題でした。
採用費に予算を投じ、学生や主婦層をターゲットにアルバイト募集。採用後は研修トレーナーを付け、1か月間の研修を実施しました。採用費に加えて人件費も上がりましたが、それ以上に売上と粗利益を取れたため、人時生産性が向上しています。
【具体的な施策】
- 採用費の予算を立て、ターゲット層へアルバイト募集を実施
- 採用スタッフに研修トレーナーを付け、戦力にしていくための研修制度を導入
- シフト人数を定数8名から10名へ充実させ、1日の来客数を最大化
【生まれた効果】
- スタッフ1人につき可能ポジション3つ以上の習得
- 常に満席でも対応可能なオペレーションの改善で生産性を向上
- 全席2時間制を導入し回転率アップ
- 回転率の向上でさらなる売上アップと利益追求
【数字での成果】
- 売上高1.5倍・粗利益高が2倍に増加
- オペレーションの改善で月間の総労働時間が約50時間の短縮
- 人時生産性が3,500円から4,000円に
事例②:リピートにつなげる逆算的な適正人数で人時入客数アップ
リピートのお客様を増やすためには、「また来たい!」と思わせることが重要です。そのため、あえてサービススタッフを増やし、意図的な接点を持たせていく必要があります。そんな逆算的な戦略で、人時入客数をアップさせた事例を紹介します。
カジュアル利用から接待まで、幅広く対応できる和食居酒屋業態。席数は50席、坪数28坪の店舗です。オフィスビル内の立地で、現状よりもリピーターを増やし、顧客数と単価アップが店舗課題でした。
【具体的な施策】
- 営業時間内の適正スタッフ数の見直し(7名から9名へ)
- テーブルごとに担当制を実施
- 顧客との接点回数を増やし、信頼関係とリピートへつなげるコミュニケーション
【生まれた効果】
- ホールスタッフを増員したことでサービス力が向上
- テーブル担当制の導入で顧客との信頼関係が向上
- 細かな気配りとコミュニケーションで新規・既存顧客の満足度がアップ(リピートにつながる)
【数字での成果】
- リピーターが2倍にアップ
- 人時入客数が5人/時間に
- 生産性が上がり、月間売上高が昨年対比125%に増加
まとめ
今回は、飲食店における生産性をはかる指標や事例を紹介しました。
人件費の高騰や採用の難しさによる慢性的な人材不足は、飲食業界全体の課題です。そのため、業務効率化は急務。生産性にかかわる指標を活用し、持続可能な経営をしていく必要があります。
指標を活用するために、この記事がご参考になれば幸いです。