この記事では、総合食品卸だからこそ知っている食肉の雑学をお届けします。今回のテーマは「牛肉」について。国内に流通している牛肉には、国産と輸入がありますが、ここでは国産牛をメインに深堀していきます。お客様との会話のきっかけや仕入れのヒントになるかもしれませんので、ぜひご覧ください。
牛肉の格付けってどの部位を見ている?
グルメ番組を見ていると時折耳にする「A5ランクの牛肉」という言葉。ご承知の通り、A5とは牛肉の等級のことで最高等級を表しています。牛肉の等級は、ABCで評価される「歩留等級」と、1〜5の数字で評価される「肉質等級」の2つをかけ合わせて決まります。
・歩留等級:牛一頭からどれだけ肉が取れるかを算出
・肉質等級:脂肪交雑(サシ)・肉の色沢・肉の締まり及びキメ・脂肪の色と、4項目から評価
では、この評価は牛肉のどこを見て決められるのでしょう。
枝肉は食肉卸売市場にて第6~第7肋骨間(リブロース、肩ロースのあたり)で切り開かれ、その断面から歩留まりや肉質が評価されます。
写真:公益社団法人 日本食肉格付協会『牛枝肉取引規格の概要』より
〈第6~第7肋骨間切開面の測定部位〉
写真:公益社団法人 日本食肉格付協会『牛枝肉取引規格の概要』より
歩留りは、①胸最長筋(ロース芯)の面積や②バラの厚さ、③皮下脂肪の厚さなどから算出。
肉質は、①胸最長筋④背半棘筋⑤頭半棘筋から「脂肪交雑」「肉の色沢」「肉の締まり及びきめ」を、③皮下脂肪や筋間脂肪、枝肉の外面などから「脂肪の色」を、それぞれ5段階で評価し最も低い等級に決定されます。
等級の高さのカギは父親にあり?
それでは、評価の高い牛はどのように生まれるのでしょう。
カギの1つとなるのが、父親である種牛(種雄牛)です。
一般的に和牛は、繁殖農家で繁殖用の母牛を飼育し、人工授精して仔牛を生ませて育て、8~10カ月頃に仔牛の市場に出荷。それを肥育農家が購入し、成牛に育て屠畜場に出荷、枝肉となって食肉卸市場に届き、セリにかけられ、仲卸などに購入されます。
繁殖農家で人工授精に使われるのが種牛の精液ですが、この種牛に選ばれるためには狭き門をくぐり抜けなければなりません。
まず、産肉能力が高いと評価される雄牛と雌牛を交配。生まれた雄の仔牛の中から、後に雌と交配させてその子供の肉質を調査するための雄を選抜して育成。成牛となり、雌と交配して生まれた仔牛をさらに育成し、成牛になった時の肉質を評価。優れている牛の父親が種牛となります。ここまでざっと5~6年ほどかかるようです。
また、種牛が年をとったら新しい種牛が必要になります。新しい種牛は、上記の過程を経て選ばれた種牛の子供から候補が選ばれます。世界でも人気が高い黒毛和牛の肉質は、こうして受け継がれていくのです。
実は手間がかかる「カルビ」
ご存じの方も多いかとは思いますが、カルビは部位名ではありません。韓国語でアバラを意味し、日本では主にバラがカルビとして食べられています。
では、このカルビを作るのは意外と手間がかかることを知っていますでしょうか。
そもそも、牛肉の枝肉は大きく分けると、「もも」「トモバラ」「ロイン」「肩・うで」の4つに分けられます。このうち、カルビとして提供されるのは、主にトモバラ。実際、和牛のトモバラの大半は、焼肉店で使われていると言われています。
トモバラの1枚の重量は約40~50kg。これを脂や筋目に沿って、ボンレスショートリブ・タテバラ(ショートプレート)・カイノミ・ハラミ(インサイド)・カブリ・ゲタ・カッパ・ササミの8つの部位に切り分けます。各部位を整形していくと歩留りは35~40%程度。それだけ脂がたくさんついている部位ということが分かります。
焼肉店は、こうして整形した各部位を肉質を見て特上・上・並と分け、さらに一枚ずつにカットしてから提供しているのです。
大手牛丼チェーンで使われている部位知ってる?
バラが使われることが多い牛丼ですが、日本人なら誰でも知っている大手牛丼チェーンでは、バラの中でも特定の部位をメインで使っているのをご存じでしょうか。
その部位は、ショートプレート(かぶり、フランケン、たてばらで構成)。
上述したように、バラは日本ではカルビとしてもお馴染みの部位です。
しかし、牛肉の一大生産国アメリカでは、バラという部位の評価は日本とは違います。日常的に牛肉が食べられるアメリカでは、赤身肉の人気が高いため、脂の多いバラは需要が低い部位です。大手牛丼チェーンはそこに目を付け、トモバラの中でも赤身と脂のバランスがよく比較的柔らかなショートプレートを大量に使用し始めたという経緯があったようです。
今や国民食とも言える牛丼ですが、ここまで広がった一因には、各国の食文化の違いがあったと言えるでしょう。
以上、牛肉について日常では聞くことが出来ない話を紹介しました。お客様との会話のネタや仕入れのヒントになれば幸いです。