原材料費の高騰や人件費の上昇で利益を確保するのが難しくなっている昨今、適切な価格設定は経営に大きな影響を及ぼします。原価率のほか、FL比率や客単価などの要素を考慮することで、お客様に満足いただける価格設定と利益の両立が可能です。
本記事では原価率の基本的な計算方法や原価率を抑えるポイントについて解説します。現在、メニュー価格の見直しを検討している方にとって、本記事の内容がお役に立てるでしょう。また、実際の価格設定事例もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
この記事を書いた人
橋本 淳 44歳
飲食企業の現役総料理長。副業でWebライターとして活動中。現在6年目。
料理人歴 25年目
日本料理:7年
イタリア料理:3年
居酒屋/やきとり/などの大衆料理:15年
飲食店の価格設定は「原価率30%前後」が目安
原価率とは、メニューの販売価格に対する材料費の割合を示すものです。飲食店経営において、原価率は売上に対して食材などの原材料費がどれだけ占めているかを表します。原価率の計算式は以下の通りです。
原価(材料費)÷販売価格×100
たとえば、1,000円(税抜)で提供するランチメニューの材料費が300円だった場合、原価率は30%です。
飲食店では、よく原価率は「30%前後」が目安といわれています。30%が推奨される理由は、以下のような一般的な飲食店の収益構造にもとづきます。
- 人件費30~35%前後
- 原価率30%前後
- 固定費20~25%前後
- 利益10%
しかし、昨今の原材料高騰により、主要外食100社の原価率平均は37.5%まで上昇しています(※)。そのため、販売価格をあげるなどの原価率を抑える施策が必要になるのが多くの飲食店の課題です。
(※)出典:帝国データバンク|「主要外食 100 社」価格改定動向調査
FL比率も考慮しよう
FL比率とは、Food(原材料費)とLabor(人件費)を足した費用を売上高で割ったもので、売上に対する原材料費と人件費の割合を指します。計算式は以下の通りです。
(原材料費+人件費)÷売上高×100
一般的にFL比率は55%~60%が標準的な数値とされており、55%未満であれば優良店と評価されます。
店長や料理長などの現場責任者がコントロールできるのはFL比率です。たとえば、発注量の適正化や定期的な在庫の見直し、売上予測に合わせたシフトの調整などが挙げられます。
原価率を抑えるポイント
原価率を抑えるポイントは以下の3つが挙げられます。
- 仕入れ価格の見直し
- 食材ロス率の改善
- 食材歩留まり率の改善
以下で詳しく見ていきましょう。
仕入価格の見直し
仕入れ価格の見直しは近年の物価高騰の影響もあり、効果的な方法のひとつです。
具体的な見直し方法以下の3つが挙げられます。
- 取引先と交渉
- 仕入れ先を探す
- 仕入れ材料の変更
取引先との交渉では、おもに仕入れ価格を下げてもらう交渉です。一方で仕入れ先も赤字のリスクにつながるため、大幅な値下げ交渉は難しいでしょう。そのため、常に新しい仕入れ先を探したり仕入れ材料のランクを下げるなどの対策も視野に入れておくのがおすすめです。
一方で、仕入れ価格は現在上昇傾向にあり、仕入れ業者を変更したとしても原価率の改善に至らないケースも増えてきています。そのため食材ロスを出さない仕込みオペレーションの構築や、レシピの見直しによる歩留まりの改善など、努力が必要です。
食材ロス率の改善
ロス率とは、仕入れた食材のうち、実際に商品として提供できなかった割合を示す指標で、以下の計算式で算出します。
ロス金額÷売上高×100
一般的な飲食店では、仕入れ食材の約3~5%が何らかの形でロスになっているとされています。
ロス率を改善するためには、正確な在庫管理が不可欠です。たとえば、売上予算から適切な仕込み量を設定や先入れ先出しの徹底、食材管理をおこなうことで、廃棄ロスを最小限に抑えることができます。
また、野菜の皮むきや魚の下処理など、技術の向上によって食材ロスを削減できる部分も少なくありません。
食材歩留まり率の改善
歩留まり率とは、仕入れた食材の総重量に対して、実際に商品として使用できる部分の割合を示す数値です。
たとえば、1kgのキャベツを仕入れ、芯や外葉を除去した後の使用可能な重量が800gの場合、歩留まり率は80%となります。
歩留まり率を向上させるためには、加工技術の向上や標準化が不可欠です。
正しい工程で製造することで無駄を削減し、可食部分を増やすことができます。
原価率を抑えたメニュー価格の設定事例を紹介
ここでは原価率をおさえた価格設定の事例を紹介します。ぜひ参考にしてください。
事例:魚の廃棄していた部分を活用したメニュー開発
東京都内で80席規模の和食店を運営する店で、もともと廃棄していた部分を活用したメニュー展開により原価率の大幅な改善に成功しました。
ホール5名、キッチン5名体制で運営するこの店舗では、ランチタイムの人気メニューである刺身定食の副産物を効果的に活用しています。
具体的な事例として、ブリの活用方法を解説します。
1尾5kgのブリ(仕入れ価格1,120円/kg)を使用した場合、通常の歩留まり率は40%程度で可食部分は約2kgとなります。この場合、ブリ1尾の仕入れ価格は5,600円となり、1人前200gで1,200円の刺身定食を提供していたので、原価率は46.7%(5,600÷1,200×10皿)でした。
そこで、従来廃棄していた骨や頭を活用し、「魚のあら煮」として夜メニューに加えることで歩留まり率を70%まで改善しました。魚のあら煮は4皿分作れると計算し、価格は800円に設定。これにより、刺身定食10皿と魚のあら煮4皿分を提供できるようになり、ブリ1尾からの総売上は15,200円(1,200円×10皿+800円×4皿)に向上。原価は5,600円のままなので、原価率は36.8%まで下げることができました。
さらに、この取り組みは食品ロス削減にも貢献しています。
【工夫したポイント】
・廃棄やまかないにしていた部位をオンメニューしたことにより売上に貢献した
・別メニューの販売によりブリに対する原価率を下げた
この事例は魚にかかわらず、鶏や野菜などでも応用できます。普段は廃棄してしまうものを有効活用することで原価率を下げられるため、原価率が上昇している飲食店で効果的です。
まとめ
本記事では、飲食店における適切な価格設定の方法について解説しました。
原価率を抑えるためには、仕入れ価格の見直しやロス率の改善、食材の有効活用が重要です。
実際の成功事例として紹介した和食店のように、従来は廃棄していた食材を活用することで、原価率を大幅に改善できる可能性があります。原価率を抑える取り組みを参考に、お店の状況に合わせた適切な価格設定を行い、安定した経営基盤を築いていきましょう。