飲食店経営者の中には、従業員の長時間労働に悩んでいる方も多いことでしょう。営業時間の長さや仕込み・片付けなどの負担の増加は、スタッフの疲弊や離職率の上昇を招いてしまう可能性があります。中でも閉店後の作業は効率化しないと、帰宅時間が遅くなります。
本記事では、飲食店における長時間労働の要因とその解消方法として、閉店作業の効率化に焦点をあてて解説します。労働時間で課題を抱えている方は、この記事を読むことで解決のヒントを得られるでしょう。ぜひ最後までご覧ください。
この記事を書いた人
橋本 淳 44歳
飲食企業の現役総料理長。副業でWebライターとして活動中。現在6年目。
料理人歴 25年目
日本料理:7年
イタリア料理:3年
居酒屋/やきとり/などの大衆料理:15年
飲食店で長時間労働が発生しやすい要因
飲食店で長時間労働が発生する主な要因としては、以下の3つが挙げられます。
1. 営業時間の長さ
2. 休日取得の難しさ
3. 営業時間外に行う業務の多さ(開店前準備や閉店後の片づけなど)
飲食店の中には、24時間営業や深夜営業を行っている店舗があり、シフト調整の難しさから長時間勤務が常態化しています。また、年中無休営業を採用する店舗も多く、休暇が取りづらい環境も要因です。
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査(※1)によれば、有給休暇の取得率が全産業で62.1%であるのに対し、宿泊業・飲食サービス業では49.1%と最も低くなっています。
加えて、営業時間外に清掃や仕込み、在庫管理、売上管理といった多くの業務が発生するため、実質的な労働時間が長くなりがちです。
株式会社DFA Roboticsが行ったアンケート調査(※2)によれば、長時間労働は飲食店スタッフが辞める理由の第2位(38.3%)との結果がでています。このことから、長時間労働の解消なくして従業員満足度の向上や離職率の低下は望めないといえるでしょう。
(※1)厚生労働省|令和5年就労条件総合調査の概況
(※2)PR Times|【飲食店の「働き方改革」に有効な打ち手とは?】ホール経験者が飲食店を辞めた原因調査第2位「長時間労働」、第1位は…?
なぜ「閉店作業の効率化」が長時間労働の解消につながる?
飲食店の長時間労働を解消するには、主に以下のような対処法があります。
- 労働環境の見直し(待遇改善や柔軟なシフト制度の導入など)
- IoTツールの活用(予約管理システムや清掃ロボットの導入など)
- 仕込み業務の効率化
- 閉店作業を含む、営業時間外作業(オペレーション業務)の効率化
中でも、毎日必ず発生するオペレーション業務である閉店作業の効率化は、即効性があり取り組みやすい対策です。なぜなら、閉店作業は日々のルーティンであるため、改善すれば効果が持続しやすいためです。また、ほかの対処法と比較しても、時間や費用といった初期投資を抑えて取り組むことができるため、小規模店舗でも取り組みやすい方法といえます。
まずは閉店作業の効率化から着手し、長時間労働の解消を目指しましょう。
なお、3つめの仕込み業務の効率化については、「飲食店の「仕込み」は効率化できる! 事例で見る従業員の負担を減らす方法」で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
閉店作業を効率化する際のポイント
閉店作業を効率化する際は、以下2つのポイントを押さえましょう。
■「ECRSの原則」を活用して業務課題を抽出
■人・ルール・物の視点でプロセスを改善
「ECRSの原則」とは、
排除(Eliminate)/ 結合(Combine)/ 交換(Rearrange)/ 簡素化(Simplify)
上記の頭文字をとった、業務改善を促し生産性を向上させるためのフレームワークです。
効果が大きく実施が容易なものから順に「排除→結合→交換→簡素化」の順で改善を進めます。例えば、閉店後の業務改善は以下のように実施できます。
Eliminate(排除)では、不要な清掃箇所を見直して業務量を削減。Combine(結合)では、在庫確認と発注業務を同時に行うよう統合します。Rearrange(交換・再配置)では、清掃と在庫管理の一部を外部業者に委託し業務分担を変更。Simplify(簡素化)では、在庫管理アプリの導入により手作業を自動化します。業務改善により、負担が軽減され、営業時間のサービス向上につながります。
さらに、作業品質や所要時間にばらつきがある業務は、「Simplify(簡素化)」の観点からガイドラインを策定。業務を標準化し誰でも同じクオリティで作業が可能になれば、属人化を防ぐことができるでしょう。
ECRSの原則に沿って業務を見直すと同時に、人・ルール・物の視点でもプロセスが改善できないか検討しましょう。具体的には以下のような方法があります。
- 人:シフト調整やスタッフ配置の見直し
- ルール:POSレジや清掃ロボットなどのシステム導入
- 物:調理器具や設備の配置変更
などです。
閉店作業を効率化させることで時間と労力を削減しながら、長時間労働解消への第一歩となります。ぜひ実践してみてください。
【事例】閉店後業務の効率化で長時間労働を解消した具体例を紹介
ここでは、実体験をもとに長時間労働を解消できた事例を紹介します。労働時間を課題と感じている方の参考にしていただければ幸いです。
事例:片付け業務をECRSの原則に基づき改善・運用して効率化
事例の店舗は、1階と地下1階に計80席を構える中規模のイタリアンレストランで、社員8名とアルバイトスタッフ5名で運営しています。
営業に必要なスタッフ数はキッチン5名、ホール4名で、営業時間は17時~22時30分(フードラストオーダー21時/ドリンクラストオーダー21時30分)です。
以前は、フードのラストオーダー時間である21時から片付けをスタートし、退勤するまでに約1時間30分ほどかかっていました。そこでECRSの4原則(排除→結合→交換→簡素化)を順に適用して改善を実施しました。
まず、Eliminate(排除)として、必要性の低い業務(過剰な清掃箇所や二度手間になっている作業)を洗い出して削減。次にCombine(結合)として、同時に行える作業(例:調理器具の洗浄と冷蔵庫の整理)を統合。Rearrange(交換・再配置)では、作業の順序を見直し、効率的な流れに再構築。最後にSimplify(簡素化)として、各セクション(メインキッチン、前菜担当、デザート担当、ドリンク担当など)ごとの片付け業務を標準化したマニュアルを作成・運用しました。
業務改善に取り組んだことにより、退勤時間を30分早める(22時30分から22時)ことができました。
当初の短縮目標時間は30分減だったため、目標は達成。時間を圧縮できた結果、キッチンスタッフの従業員満足度は高まり、退勤後に仲間うちで食事会を開催するなど、コミュニケーションの場が増加したことで、離職率は20%ほど改善されています。
この手法は、業務効率化にまだ着手していない飲食店や、店舗規模拡大を目指す企業におすすめです。
ECRSの原則を活用した片付け業務の標準化は、コスト削減や属人化の解消、生産性向上といったメリットをもたらし、長時間労働解消のファーストステップになるでしょう。
まとめ
飲食店の長時間労働を解消するためには、業務効率化が鍵です。本記事では、長時間労働が発生しやすい要因を分析し、「閉店作業の効率化」に焦点を当てた具体的な改善方法を提案しました。
特に、片付け業務の手順表作成と運用による標準化の例では、退勤時間を30分短縮する成果をあげています。
片付け業務の効率化は属人的な業務を可視化し、スタッフの負担軽減とモチベーション向上につながります。まだ着手していない店舗や規模拡大を目指す企業にとって、実践しやすい初手の方法としておすすめです。
ぜひ記事を参考に、労働環境改善への一歩を踏み出してください。