新型コロナウイルスの感染が国内で初めて確認されてから早3年。特に深刻な打撃を受けた飲食業界において、その渦中で成長を遂げたと断言できる飲食店は、決して多くありません。
しかし、コロナ禍において3店舗もの新規出店、そして既存店を含む都内全7店舗黒字経営を実現している経営者がいます。
2018年に独立開業した『和食日和 おさけと』代表の山口直樹氏です。
今回、各飲食ビジネスメディア記事で “ビジネス街で独り勝ち”“新時代の経営者”と謳われる、山口代表に独自戦略を伺いました。
飲食店を巡る状況が大きく変革する中、直面する様々な状況と課題に対し、勝ち抜いてきた山口代表の戦略とは?
山口 直樹 氏(ヤマグチ ナオキ)
『和食日和 おさけと』代表。ソムリエ、SAKEディプロマ、酒匠、日本酒学講師、FBO専属テイスターなど数々の資格を有する。現場のプロである代表自ら社員を率い「飲食店で働く人たちの社会的地位を上げていきたい」という企業理念を掲げている。著書「世界で一番わかりやすい おいしいお酒の選び方」は累計8万部を超えるロングセラーに。
店のコンセプト設定と適確なペルソナ設計
山口代表がとってきた戦略は、ずばり「コンセプトとペルソナ設計が基盤」です。
「店のコンセプトは、日本各地の酒蔵から仕入れる日本酒、そして日本の風土を活かした、くずし割烹。そのコンセプトを愉しんでもらうお客様を想定する際、ターゲットというレベルでは無い、厳密な『ペルソナ』を設計することが重要です」
※ペルソナとは、いわば『理想のお客さん像』。人物像にやや幅を持たせる『ターゲット』より、実在の人物であるかのように性別、職業、年収、嗜好性など詳細に設定をすること。
山口代表が設計したペルソナは、40~50代男性で課長~部長クラスのビジネスマンで、年収1,200万程で所得が高く、自由に使えるお金を多く持つ人物。このペルソナを集客する目的に基づき、おさけとの料理やサービスにおける戦略の方向性を決めています。
「顧客像を明確に持つことで、経営戦略に基づいた店づくりの詳細を決める事が出来ます。この時、ペルソナ以外の人を失うことを怖がらないことが大切です。どんな店でも合わない人は絶対にいるので。全ての人を拾おうとすると、要素が混在したよくわからない店が出来上がってしまい、結果的に本来のペルソナも逃してしまいます」
ペルソナを取り込むための集客ペルソナ
さらに、山口代表は、このペルソナを集客するために、もう“1人”ペルソナを設計しています。
「来店してもらうために大切なのが、口コミです。ランチにきちんと良い食材で美味しい料理を提供することで、近隣で働く女性客がグルメサイトで口コミを拡散してくれます。この女性客は、広告用の昼のペルソナと言えますね。そしてサイト上の高評価を見て、本当に来て欲しいペルソナである管理職の男性が予約来店し、接待に使う。日本酒の品揃えとクオリティの高い料理に満足し、これなら7000円は安いとリピートしてくれる。これがうちの集客です」
ランチの役割は「夜の宣伝」。ではありますが、ランチの粗利だけで家賃は払い切れるように価格設定されていることも付け加えておきます。「ランチだけで家賃が払える。かつ、それが夜への宣伝にもなっている。これで利益が出ないわけがありません」と山口代表は断言します。
とは言え、少なくとも確実に利益が下降したタイミングはあったのではないでしょうか。
「耐えるしかないという時はありました。初めにコロナによるキャンセル料は一切いただかないと決め、どれだけキャンセルが出ても、絶対にキャンセル料はいただきませんでした。コロナ禍が終わったら必ず来ていただけるように、と。信頼を得るということですね。実際、最初の緊急事態宣言が終わった後に、すぐお客様は戻ってきたこともあり、割と早めに必ず売上は戻って来る、と感じることが出来ました。また緊急事態宣言が出た時も、明ければすぐお客様が戻ってきて…この繰り返しの経験で、自分の中で確信を持てるようになりました」
コロナ禍でも成功する極意
山口代表は、高所得のビジネスマンという、同じペルソナ設計と店作りで勝てるエリアに狙いを絞り出店しています。その出店スピードは、約1年に1店舗という驚異のペース。
そこには、コロナ禍だから得られたチャンスもあったようです。
「潰れてしまった店があるからこそ、良い条件で良い場所に入れるチャンスです。霞が関、赤坂、日本橋。今、うちの中でも常に売上トップ3の店ですが、この3店は全てコロナ禍になってからオープンした店です。良い場所に入れたからですね。もちろん、立地だけではありません。『採算を守った全既存店舗黒字』『コロナ禍が過ぎればお客様が必ず戻ってくる自信』、そして『人材』の3つの条件が揃っていたから、コロナ禍でも出店し、成功することができたのだと考えています」
コロナ禍だからこそ、好条件で店を出せる。状況を逆手に取った発想が、ただの奇抜な賭事では無い事は、各店舗の売上として明確に表れています。
成功の1つの鍵『人材』誰一人辞めなかった
土台となったのは、山口代表が挙げた3つの条件。このうち『人材』は、現代の飲食業界における最大の課題、山口代表も「最も力を入れている」と語気を強めます。
3年にわたるコロナ禍において、誰1人退職者を出さなかった山口代表が語る人材戦略とは?
次回のメルマガで詳しくお伝えします。
〈インタビュー・文〉プレコフーズ メルマガ事務局 山本麻衣
取材協力:『和食日和 おさけと』
日本各地の酒蔵から仕入れる日本酒と、日本の風土を活かしたくずし割烹を上質な空間で味わえる“大人の隠れ家”。
店名である「和食日和」には「和」に始まって「和」に終わるという意味も込められている。現在は7店舗を運営(2023年2月現在)。
公式ホームページ