※本記事で紹介しているのは、令和6年8月9日時点の情報です。最新の情報については必ず厚生労働省の公式サイト等をご確認ください。
ご存じの通り、パートやアルバイトで働く人の中には、「もっと働きたいけれど、年収が一定の水準を超えると年金や医療など社会保険料の負担が発生して手取り収入が減ってしまう」「年収が増えると扶養から外れてしまう」といった理由で、働き過ぎないようにしている人が少なからず存在します。
この手取り収入が減らないように年収を抑えようと意識する金額のボーダーラインが、いわゆる「年収の壁」です。
現在、飲食業界では人手不足が慢性化していますが、雇用する側が年収の壁対策を行うことで、アルバイトやパートが働きやすくなるため、人手不足を解消できる可能性が生まれます。
ここでは、雇用する側が出来る対策についてご紹介します。
「年収の壁」のボーダーライン
アルバイトやパートで働く人の具体的な年収の壁には「106万円」と「130万円」の2種類のボーダーラインがあります。
- 106万円・・・従業員101人以上の企業に週20時間以上で勤務する場合
- 130万円・・・従業員100人以下の企業に週20時間以上で勤務する場合
※令和6年(2024年)10月以降、106万円は51人以上、130万円は50人以下の企業に変更
このラインを超えると年金や社会保険に加入するため、保険料の本人負担が発生し働く人の手取り収入が減少するということになります。
年収の壁・支援強化パッケージ
人手不足の原因の一つと見られる「年収の壁」を解消するため、政府は令和5年(2023年)10月から「年収の壁・支援強化パッケージ」を開始。このパッケージには「年収の壁」を超えても手取り収入が減らないようにするための対策が盛り込まれました。
「106万円の壁」対策
新たに社会保険の適用を行った事業者は、労働者1人あたり最大50万円を助成してくれるキャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)を受けることが出来ます。
このコースで受けられるのは、下記の3つのメニューです。
①手当等支給メニュー
年収106万円を超える労働者に対して本人負担分の保険料を軽減するために手当等(社会保険適用促進手当)を支給することで労働者の収入を増加させる取組みをした事業主に、労働者1人当たり3年間で最大50万円(※)の助成金を支給。
※助成額は中小企業の場合。大企業の場合は4分の3の額
②労働時間延長メニュー
事業主がバイトやパートで働く労働者の所定労働時間の延長をすることで、新たに社会保険の被保険者とした場合、労働者1人当たり6か月で30万円(※)の助成金を支給。
※助成額は中小企業の場合。大企業は22.5万円
③ 併用メニュー
1年目に賃金の15%以上分を労働者に追加支給した場合、労働者1人当たり20万円(※1)を支給。その上で、2年目に週所定労働時間を4時間以上延長させるか、週所定労働時間の延長と賃金の増額を組み合わせる措置を行った場合、労働者1人当たり30万円(※2)を支給。
※1 助成額は中小企業の場合。大企業は15万円
※2 助成額は中小企業の場合。大企業は22.5万円
「130万円の壁」対策
バイトやパートで働く人が、繁忙期に労働時間を延ばすなどにより、収入が一時的に上がった場合、事業主が「一時的な収入増であること」を証明する書類を作成し、加入している健保組合などに提出することで、引き続き扶養に入り続けることが可能になります。
※証明書は原則として連続2回(毎年1回被扶養者の収入確認がある場合、約2年間)までが上限。
従業員の労働時間を延長することは、事業主にとって手間や人件費等のコストがかかりますが、「年収の壁」対策をとることで頼りになるスタッフを確保できる可能性は高まります。現在、パートやアルバイトが雇えずに悩んでいるという方は、検討する価値があるのではないでしょうか。
なお、今回紹介した助成金は2026年3月末までの時限的な措置であり、条件等も変更となる可能性があるので、より詳しい情報や申請の仕方は、厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」で確認してみてください。