飲食店において、まかない作りはスタッフを育成するための大切な仕事のひとつです。一方で日々の業務を優先するあまり、まかないの重要性を感じていない店舗もあるのではないでしょうか。
この記事では、キッチン・厨房スタッフにおける「まかない」の重要性について解説します。人材育成の課題解決の一助になりますので、ぜひ参考にしてください。
※まかないを導入する場合、「無料」とすることは税法上の問題が生じるため注意が必要です。
この記事を書いた人
現役の飲食企業幹部(10年目)。
総料理長として、採用/人事/人材教育/店舗マネジメント/飲食事業部の利益責任/食材仕入責任者/HACCPの考えを取り入れた衛生管理責任者/メニュー開発などを担当。2019年より、副業でWebライターとして活動中。
飲食店における「まかない」とは
まかないとは飲食店で働く従業員のために、在庫している食材を使って調理された料理を指します。いわば従業員用の食事です。具体的にはランチやディナー営業終わりに、余った食材などで作られたものを「まかない料理」として提供されることが多いです。
キッチン・厨房スタッフ育成でまかないを取り入れるメリット
まかないはキッチン・厨房スタッフの育成において、重要視する飲食店が多いです。まかないを取り入れるメリットは、主に以下の3つが挙げられます。
- 店のメニューに対する理解を深められる
- 従業員のモチベーションにつながる
- 調理の練習機会になる
以下では、この3つのメリットについて解説します。
店のメニューに対する理解を深められる
キッチンスタッフにとって「まかない」は単なる食事ではなく、メニューへの理解を深める絶好の機会です。お店で出しているメニューを「まかない」で提供している飲食店の場合、お店の味や盛り付け、提供するタイミングなどを直接体験できます。そして、五感で感じた経験はお客様へ「体験」として伝えることができるため、料理を魅力的にみせるためのアピールにもなります。
メニューへの理解を深めることは、お客様満足度と従業員満足度にも繋がります。結果的にリピーターの増加や売上アップに貢献できるのです。
従業員のモチベーションにつながる
まかないが美味しいと従業員のモチベーションに繋がりやすいです。人間の三大欲求のひとつ「食欲」を、美味しい料理で満たせば、従業員満足度が向上します。
また、食事の時間を共有することで、スタッフ同士の円滑なコミュニケーションにも繋がります。チームワークを必要とする飲食店では、コミュニケーションは必須業務。そのため、美味しいまかないとコミュニケーションの時間がチーム力を高めてくれます。
調理の練習機会になる
まかないは、調理の練習の場として活用できます。
具体的には、余っている食材でのまかない作りや上司や先輩スタッフから教えを受けた料理に挑戦など。知識やスキル、経験値が向上するなどのメリットがあります。
また、まかないから新メニューへ発展することも。例えば、「台湾まぜそば」は、もともとまかない料理がきっかけと言われており、他にもまかない料理から派生した商品は数多く存在します。
まかないを通して、食材に対する知識の幅や種類・特性や調理方法を学ぶことができるのもメリットのひとつ。食材への理解が深まれば、今まで以上に美味しい料理を作れるようになるでしょう。
【事例】まかないを活用したキッチン・厨房スタッフの育成方法
ここでは、まかないを活用したキッチン・厨房スタッフの育成方法の事例を紹介します。まかないを教育の一環として導入したいと考えている方へ、参考になれば幸いです。
事例①:【飲食店未経験者】献立まかないで基本の調理技術を伝授
調理未経験のスタッフを育成するためのまかない活用方法です。
【具体的な取り組み】
- まかないの献立を作る
例:(月)親子丼/(火)野菜炒め/(水)生姜焼き/(木)唐揚げ/(金)カレーライス/(土)シチュー など - 設定したメニューでトレーナーと1か月間まかないを担当
- ディナー営業前の落ち着いた時間に調理する
- 新人スタッフへの指導方法は統一
(1日目)指導者がやって見せる、(2~10日目)一緒に作る、(11~20日目)新人にやらせてみる - 翌日のディナー営業前に前日のフィードバック
【フィードバック時のポイント】
- できたことは具体的に褒める
- できなかったことはコツやポイントをアドバイス
- 料理が楽しいと感じてもらう
- 自信を持たせる
【成果】
- 調理未経験者でも1か月で基本的な調理スキルを身につけられた
(包丁の使い方/調味料の使い方/作業効率/スケジュール管理) - 味付けの基本を身につけられた
- 短期間で即戦力として育成可能
上記の育成方法は、調理未経験の新人スタッフを短期間で戦力として育成したい、人材不足に悩む飲食店に有効です。
育成方法を確立した背景は、飲食店の人手不足です。学生アルバイトや、海外スタッフなどの調理未経験者を育成するために実施しました。
事例②:【料理センス向上】まかないで飲食店スタッフを育成する方法
既存スタッフのレベルアップを図るためのまかない活用方法を紹介します。
【具体的な取り組み】
- 全キッチンスタッフが1週間ごとの交代制でまかないを担当
- 担当者は1週間のまかない(献立)を考える
- 新人スタッフがいる場合、経験者と未経験者をペアにする
- テーマは「ご飯に合うおかず」(麺でも可)
- 料理名もつけること
- 食材・調理法は何でもOK ※ただし高級食材以外
- まかないにかかる費用も把握しておく(概算)
- 手の込んだ仕込みは避ける(営業や休憩に影響するため)
- 仕込み時間は各自に任せる(計画性を育てるため)
- 素早く・計画的に・美味しく・見た目がきれいな料理を作る
- フィードバックは店長・料理長が行う(そのほかのスタッフもOK)
【フィードバック時のポイント】
- 良かった点をほめる
- もっとよくできるところをアドバイス
- 否定的な意見は言わない
- クオリティが高い場合、おすすめメニューなどの候補にする
【成果】
- キッチン・厨房スタッフのモチベーションが向上
- まかないが美味しくなり、社員・アルバイトスタッフのモチベーションとチームワークが改善
- 料理に対する感度が上がり、グランドメニューの仕上がり精度が向上
上記の育成方法は、既存スタッフのレベルアップや店舗全体のチームワーク向上に役立ちます。
この取り組みの背景には、育成の仕組み化と自主性を高めることでした。スタッフ一人ひとりが主体的に取り組める環境を作りに注力しています。またフィードバックに否定的な意見を言わせないことで、失敗を恐れずにチャレンジできる環境を整えています。
まとめ
今回は、キッチン・厨房スタッフにおける「まかない」の重要性や育成事例を紹介しました。飲食店における「まかない」は単にスタッフ用の食事という役割だけでは留まりません。キッチン・厨房スタッフのスキル向上や、店舗従業員のモチベーションアップ、チームワークの向上にまでつながる重要な業務です。また、売上に貢献する人材を育成する方法のひとつでもあります。
ぜひこの記事を参考に、まかないを教育のツールとして活用していきましょう。